「顧客が満足する」とはどういうことか

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大手出版社による「中抜き」が始まった

適当な記事が見つからなかったので,新聞記事の切り抜きでゴメン。

出版大手のKADOKAWA(角川)が4月からインターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・目黒)と紙の書籍・雑誌の直接取引を始めた。出版物を書店に届ける取次を介さないことで物流を効率化。消費者に早く商品を送り届けられるようにする。
KADOKAWA、アマゾンと書籍を直接取引 取次介さず、ポイント還元も :日本経済新聞より

個人的な感想を言えば今さらな感じ。 KADOKAWA 系列の紙の書籍や雑誌は,少なくとも Kindle 日本上陸以降は買ってない(竹本泉さんの単行本は例外かな。 KADOKAWA からはいなくなったけど)。 雑誌はそもそも買わないし,マンガもラノベも Kindle で買っている。 今さら Amazon へ直接卸すと言われても...

それよりも気になるのは,将来的にこの取り組みを一般の書店に広げようとの目論見があるらしいことだ。 日本の書籍流通は「取次」によって牛耳られているといっても過言ではない。 この状況が変わるかどうか,見ものである。

「ドイツ出版業の実態調査」

このニュースに関連して Facebook のご近所さんでは「ドイツ出版業の実態調査」が紹介されていた。

この中で「日本の出版業の課題」として

  1. 返品率の大幅改善
  2. 売り逃しを少なくする適正数配本
  3. 注文品の仕入日数短縮
  4. 上記もとにした小売書店の粗利率向上・経営改善、出版社の経営改善

を挙げている。 たとえば「取次」の項目では

ドイツには、日本の出版取次会社のような出版社と小売書店の間の物流と決済の両方を一手に扱う卸売会社(問屋)は存在せず、問屋は出版社から仕入れた自社在庫を前提に小売書店からの注文に応える存在である。その問屋はとにかく注文品を早く届けることを第一義とし、注文品の97%は翌朝店着する。業界全体では問屋経由の取引は一般的に2割程度である。上記(1)にある通り、問屋は注文システムを提供し、書店と出版社の倉庫業務代行、出版社の配送業務代行もしており、書店と出版社との直接取引にも関与はしているが、その決済は出版業界団体系列の中立的代行会社BAGが代行している。卸売会社である取次がすべての決済を行う日本の仕組みとは大きく異なる。
書店未来研究会 ドイツ出版業の実態調査より

などと書かれている。

さきほどの KADOKAWA のニュースに寄せるなら,出版社と書店との間で在庫管理・流通・決済を制御できるのなら「取次」は要らないが,実際の出版社や書店でそれができるところは限られていて,できない企業・店舗は限りなく「奪われる」だけの存在になる。 KADOKAWA や Amazon はそれができる出版社および書店であり,「奪われる」だけの企業・店舗との格差は広がるばかり,というわけだ。

でも書店から客が逃げるのは,そこが理由じゃない(ちなみに e-book を含めれば「不読率」は減ってるらしい)。 たとえば「タリア急成長の理由」として

再販制があり、価格競争がない環境で宝飾品小売チェーンから書籍小売業界に参入して一気にトップに躍り出た理由は、書店として初めて顧客満足に徹する存在だったからであろう(→タリアでのヒヤリングを参照)。豊富な品揃えならフーゲンドゥーベルがすでにあったわけで、小売店として見栄えやたたずまい、居心地の良さに配慮した書店が、タリアの登場までなかったということである。
書店未来研究会 ドイツ出版業の実態調査より

と書かれている。 じゃあ,書店に来る客(=読者)にとって「満足」とはなんなのか。

Amazon は「ショッピング・モール」じゃない

Amazon では様々なものを売っているが,ユーザ側は「スーパーの品ぞろえを見てその日の夕飯メニューを決める買い物客」のようには利用しない(全くないとは言わないけど)。 ユーザが Amazon に来るときには既に何を買うか決まっており,サイトには「最後の1クリック」を押しに来ているに過ぎない。 だからいくら Amazon の中身を見てもそこに客が来る理由は分からない。 なぜなら,ユーザが Amazon に来る理由は Amazon の外側にあるからだ。

たとえば私がこのブログで,ある本の感想を書いて末尾に Amazon へのリンクを張ったとする。 もしこのリンクから Amazon へ飛んで本を買った人がいるとするなら,それは多少なりとも私の文章が(共感なり嫌悪なり)影響を与えたということだ。 そのプロセスにおいて Amazon 自身は購入動機を与えておらず,単なる「購入ボタン」に過ぎない(stealth marketing でなければねw)。 本は(紙であれデジタルであれ)読者と読者,読者と作者,あるいは作者と作者をつなぐ medium であり, Amazon はそのつながりを細大漏らさず捉えることでユーザとのビジネス機会を得る努力をしている(かつてこれは「ロングテイル理論」と呼ばれていた)。

はたして日本の他の書店がそこまでの努力をしていると言えるのか。

ものを売る「だけ」のお店になったら試合終了

ちょっと話が逸れるけど,最近こんな記事があった。

「ご自由にお取りください」のネギを食い散らかした客を出禁にできるかどうかの法的な解釈はリンク元の記事を見ていただくとして,個人的に惹かれたのは最後の文言。

とはいえ、「まず店主の面接をパスしないと入店できないラーメン店」って、案外流行るかも。
「『ご自由にお取りください』ラーメン店でネギを大量に食べたら『出禁』」問題の法的説明のありかたについてより

私(面接まではしないけど)近い店なら知ってるよ。 ラーメン屋じゃないけど。 たとえば「隠れ家」として知る人ぞ知る店。 たとえば「会員制」の札を掲げた飲み屋さん。 昔は「会員制」の札はチンピラ除けだったりしたんだけど,最近はそれとなく一見客を除けるための手段として使ってるところがあるよね。

これはどんなお店でも同じだと思うけど,お店にとって一番重要なことはリピート(常連)客を離さないことだ。 「一期一会のおもてなし」は「次も来てくれるかもしれない」という期待と背中合わせになっている。 そのために敢えて一見客を避ける店構えにする戦略もあるのである。

10年近く前の話だが,行きつけのお店の店主が変わり,クーポンを積極的に使って客寄せした結果,1年も経たずに店をたたむことになった。 理由は簡単だ。 (私を含め)常連客が逃げてしまったからだ。 クーポンを使ったやり方は瞬間最大風速は稼げるものの,止めれば無風になる。 クーポンを握りしめて来る客はお店目当てで来店しているわけではなく,常に「お店の間」を渡り歩いている。 だからリピートしなかった。

(もちろんクーポンを発行するサービス・プロバイダは端からそれを目論んでいる。 クーポン客がその店の常連になったらクーポンを使わなくなるからね。 客もお店もクーポンに依存するよう仕向けることが,彼らにとって最善なのだ)

もちろん新規のお客さんを獲得するのは大事。 特に広島市みたいな「支店都市」では頻繁に客層が変わるので,それに追随しなければならない。 でも,そのためにリピーターを離してしまったら,後に何も残らなくなってしまう。

お店なんだから最終的にはものを売らなくては話にならない。 でも,ものを売る「だけ」のお店になってしまったら,そこで試合終了なのである。 これは書店も同じ。 本を売りたいなら,本にまつわる affordance を構築する必要がある。 あるいは(本らしく)「文脈(context)」と言い換えてもいい。 (これってつまり branding の話なんだよねぇ。 Branding の話では最近見た Mazda の記事が面白かった

私たちは「大衆」ではない

しみじみ「ヒトは社会的動物なんだなぁ」と思うのは,人は人との間に自然に「文脈」を創り,無意識にそれを維持しようとすることだ(時にそれが「絆し」として強く作用してしまうのだが)。 特に「つがりっぱなしの日常を生きる」今の私たちはその傾向が強い。 であるなら,「ものを売る」人もそこに適応していく必要がある。

先日,地元のお酒の蔵開きに行った。 お酒は人の技術の結晶であり,またその後ろにいるお百姓さんや研究者の方々との「協働(collaboration)」でもある。 私たちは「それ」を知ることで更に美味しくいただくことができるし,また「それ」を別の文脈に乗せて伝えることもできる。 単にものを買って飲んだくれているだけではない。

なんだってそうなのだ。 今はもう昭和時代の「消費は美徳」ではないし,私たちは数字で表されるだけの「大衆(big data)」ではない

参考図書?

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犬とハサミは使いよう 1
更伊 俊介 鍋島 テツヒロ
KADOKAWA / エンターブレイン 2011-02-28
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犬とハサミは使いよう2 犬とハサミは使いよう3 犬とハサミは使いよう4 犬とハサミは使いよう5 犬とハサミは使いよう6

犬になっても本を読む!

reviewed by Spiegel on 2015/04/26 (powered by G-Tools)

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つながりっぱなしの日常を生きる: ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの
ダナ・ボイド 野中モモ
草思社 2014-10-09
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ソーシャルメディア中毒 -つながりに溺れる人たち- (幻冬舎エデュケーション新書) わたしたちのLINEハンドブック 依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実 ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか (朝日新書) 〈つながる/つながらない〉の社会学-個人化する時代のコミュニティのかたち

まだ3分の1も読めてない。もう少し頑張る。

reviewed by Spiegel on 2015/04/26 (powered by G-Tools)

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インテンション・エコノミー~顧客が支配する経済
Doc Searls 栗原潔
翔泳社 2013-03-14
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HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか パーソナルデータの衝撃 UX侍 スマホアプリでユーザーが使いやすいデザインとは (impress Digital Books) 位置情報ビッグデータ (NextPublishing) 起業のエクイティ・ファイナンス

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reviewed by Spiegel on 2015/04/26 (powered by G-Tools)