Google Drive と競合するのは Dropbox ではない,ようだ
私のところでも Google Drive が使えるようになったので,さっそく試してみた。
おおっ,かつて Google Notebook で書いてたメモ等がインポートされてるじゃないか。 よしよし。 「Google Drive for PC」というのがあるようなので早速ダウンロードしてみる。 PC と同期させるツールのようだ。 一瞬いやな予感がしたが,とりあえずインストールしてみる。 どうやら既存のフォルダを同期させるとか馬鹿なことはしないらしい。 よしよし。 早速インポートされた Google Notebook のドキュメントを開いてみる。 とひょーん! Google Docs に飛ばされてしまった。 ファイルをエディタで開いてみたら url と resource_id が JSON 形式で書かれているだけ。 ショートカット・ファイルかよ! つまりインポートされたのは Google Drive ではなく Google Docs だったのか。
Google Drive の売りは Google お得意の強力な検索機能のようだ。 つまり Google は,かつての Google Desktop をクラウド上に構築しようとしているのだ。 とするなら Google Drive と競合するのは Dropbox のようなストレージ・サービスではなく,むしろ Evernote だろう。 というような話が Tumblr 上でされていて「なるほど」と思った。
ところで Google の規約がヒドいと今更ながら話題になっているようだ。 Google は3月にそれまでの規約やポリシーを包括的にまとめている。 これらに関する批判は既に色々出ていて今更な感じがするのだが,せっかくなので一部分を紹介しておこう。 話題になっているコンテンツに関する部分はこうなっている。
「本サービスの一部では、ユーザーがコンテンツを提供することができます。 ユーザーは、そのコンテンツに対して保有する知的財産権を引き続き保持します。 つまり、ユーザーのものは、そのままユーザーが所有します。
本サービスにユーザーがコンテンツをアップロードまたはその他の方法により提供すると、ユーザーは Google(および Google と協働する第三者)に対して、そのコンテンツについて、使用、ホスト、保存、複製、変更、派生物の作成(たとえば、Google が行う翻訳、変換、または、ユーザーのコンテンツが本サービスにおいてよりよく機能するような変更により生じる派生物などの作成)、(公衆)送信、出版、公演、上映、(公開)表示、および配布を行うための全世界的なライセンスを付与することになります。 このライセンスでユーザーが付与する権利は、本サービスの運営、プロモーション、改善、および、新しいサービスの開発に目的が限定されます。 このライセンスは、ユーザーが本サービス(たとえば、ユーザーが Google マップに追加したビジネス リスティング)の利用を停止した場合でも、有効に存続するものとします。」
(「Google 利用規約 -- 本サービス内のユーザーのコンテンツ」より)
ちうわけで, Google はユーザの知的財産権を奪ったりはしない。 あくまで非排他的なライセンスであり,また Google 側も無制限にコンテンツを利用するわけではない点は押さえておくべきだろう。 比較のために Evernote の利用規約も見てみよう。
「エバーノートが当社サービスを行うことを可能にするために、(当社によるお客様のコンテンツの処理、メンテナンス、保存、技術的複製、バックアップ及び配布その他の取扱いが、適用著作権その他の法令に違反することがないよう、)当社は、お客様が提供するコンテンツにつき、一定の許諾その他の権利を、お客様から得なければなりません。 従って、お客様は、当社サービスを利用しコンテンツを掲示することによって、エバーノートに対し、お客様のコンテンツを表示、実行及び配信すること、並びにエバーノートが当社サービスを運営及び推進できるように当該コンテンツを修正し複製することにつき、権利を許諾するものとします(お客様は、また、エバーノートが、当社のみの裁量に基づき、コンテンツの受領、掲載、保管、表示、公表又は伝達をしない旨選択する権利を有することに同意するものとします。)。 お客様は、これらの権利及び許諾につき、ロイヤルティが発生せず、撤回不能、かつ全世界的なものであり、また、エバーノートが、エバーノート・サービスの提供に関して契約上の関係を有する他者に対し、当該サービス提供の目的のために、当該コンテンツの利用を可能にし、かつ当該コンテンツに係る権利を移転することができ、また法的義務の遵守に必要であるとエバーノートが判断した場合にはお客様のコンテンツに第三者がアクセスすることを許可することができることも含まれる旨同意するものとします。」
(「利用規約 -- 5. 財産権、許諾及び制限」より)
という感じで Google も Evernote も大差ないことが分かる。
この手の文言は Web 2.0 (というバズワード)の台頭で起こった様々な著作権トラブルを見てきた人にはおなじみのものだと思う。 サービス・プロバイダはユーザのデータを様々に再利用する。 そのためには権利者であるユーザから一定の許諾を得なければならない。 これは(特に強力な検索機能を謳っている Evernote や Google Drive においては)プライベートなデータでも同じである。 昔はユーザから権利の一部を譲渡させようとするバカなサービス(特に日本のサービス)もあったことを考えればずいぶん真っ当な内容である。
とはいえ Google に対して何の懸念もないかといえば,そうもいかないのが実情である。 例えば,最近では Google がブラウザのプライバシー保護機能を迂回していると暴露された(まぁこの件に関しては Facebook なども「同じ穴の狢」のようだが)。
- グーグルが「Safari」ユーザーの行動を監視していた可能性――FTCによる調査も | Computerworld
- マイクロソフトもグーグルがプライバシー・ポリシーを破っていると非難 | Computerworld
こんな感じでプライバシーに対する Google の行動はあまり上品とは言えない(故に包括的な規約やポリシーにも懸念が生じるわけだが)。 私はしばらく前から Gmail で仕事のメールやプライベートなメールをしないようにしている(OpenPGP の公開鍵は一応用意してるけどね)。 Google のサービスを利用するならこれらの点を踏まえて行動するべきである。
クラウドのサービスというのは大なり小なりリスクを伴う。 堅実なプライバシー・ポリシーを設定・運用しているサービスでも,ちょっとしたセキュリティ障害からプライベートな情報がこぼれてしまうこともある(1年前の PSN みたいなのは論外だが)。 日本人は(「安心」を求めて)リスクを下げるためにはいくらでもコストをかけていいと思ってる人が多いが,実際にはかけられるコストは有限だし,たとえ無限にコストをかけられるとしてもリスクはゼロにできない。 それよりも障害が発生した際にすばやく回復できるように備えておくことのほうがトータルでは「安全」なこともある。 その辺のバランスをとっていくのが「リスク・マネジメント」なのである。