『数学ガール 乱択アルゴリズム』を読む

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『数学ガール 乱択アルゴリズム』読了。 第4弾が出るとは思わなかった。 今回も堪能させていただきました。

最近は Facebook で新しい「友達」も増えたことだし,『数学ガール』についてちょっとご紹介。

「数学ガール」は作者の結城浩さん(コンピュータ・エンジニアの間ではたくさんの良書を出されていることで有名,敬虔なクリスチャンとしても有名)が, Web 上で数学に関する小さな物語を発表されていたもので,その設定を元に書かれたのが書籍の『数学ガール』(ISBN 978-4797341379)。 この『数学ガール』はかなり好評だったようで(もちろん私も堪能した),すぐにシリーズ化された。 それが『数学ガール フェルマーの最終定理』(ISBN 978-4797345261),『数学ガール ゲーデルの不完全性定理』(ISBN 978-4797352962),そして今回の『数学ガール 乱択アルゴリズム』(ISBN 978-4797361001)だ。 『数学ガール』および『数学ガール フェルマーの最終定理』は iPad でも電子書籍として発売されている。 またコミカライズも行われていて『数学ガール』は上下巻で単行本化(ISBN 978-4840122924, ISBN 978-4840125864)されている他,『数学ガール フェルマーの最終定理』および『数学ガール ゲーデルの不完全性定理』については「コミックフラッパー」と「コミックアライブ」で連載が行われている。 次はアニメ化じゃね☆ 「もしドラ」だって NHK でアニメ化されたのに,「数学ガール」がアニメ化されないなどということがあるだろうか (いやない:反語)

「数学ガール」シリーズでは「僕」と女の子たちを中心に進行する。 彼らの話題の中心は数学で,それに学園ラブコメっぽい展開が絡まってくる。 数学トピックとラブコメ部分は一見並行して進行しているようだが実はお互いに影響を与え合っている。 その絡み合い具合が実に絶妙で面白いのだ。 だから人によってはこれを「ちょっと変わったラノベ」と見ることもできるだろうし,あるいは「萌え数学書」と見ることもできるだろう。 人によって見え方が変わるのもこのシリーズの面白いところだ。

数学部分はおそらく高校生以上を対象にしていると思われるが,がんばれば中学生でもきっと読める。 私でも中学生のころには(授業では習わなかったけど)三角関数や微積分程度は知ってたので,たぶん大丈夫。 どうしても数学苦手って方は物語を追うだけでも楽しめる。 大事なのは「ものの考え方」なのだ。 なんだかよく分からないものにお金を出したくないという方は,おそらく図書館にも置いてある(今ちょっと調べたら広島市立図書館にもあった)ので,ためしに借りて読んでみることを強くお勧めする。 どれから読めばいいかは作者によるこの記事を参考にすると良いだろう。

ちなみに私が今まで書いた感想文は以下のとおり:

さて,ようやく『数学ガール 乱択アルゴリズム』の感想をば。 ネタバレご注意。


なんちうか,今回は「テトラちゃんのターン」だったね。 帯に「確率とコンピュータの深くて不思議な関係」とあるとおり,コンピュータに関するトピックが多いのだけれど,どちらかというと「工学」というより「科学」に近い。 コンピュータ科学(computer science),そのさわりの部分と数学との関係だ。 私は,今は「流しのプログラマ」なんかしているが,学生時代にはコンピュータとかあまり関心がなかったので,コンピュータ科学を体系的に習ったことがない(コンピュータの工学の部分については会社に入ってから叩き込まれた)。 なので今回の話も純粋に楽しめた。 前にも書いたが「結城浩さんの本はよく整備された遊歩道を散歩するような気楽さと安心感がある」。 深い話になって読んでる私自身はもちっとも迷ってる感じにならないのが絶妙である。

あと,初登場のリサ(「ちゃん」付けると怒られそうw)は面白い。 個性的な登場人物たちの中でも特に異質な感じ。 キャラが「長門」っぽいからかな(「鈴宮ハルヒ」シリーズを知らない人はごめんなさい)。 でも一番「異質な感じ」がするのは,彼女が「数学ガール」ぽくないからかもしれない。 むしろ「工学ガール」か?

前にも紹介したが,『はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語』(ISBN 978-4344980150)という本にこんな一節がある。

「理学は、真理の探究であり、工学は善の実現である。 そして、藝術は美の表現である――これで所謂「真美善」が揃う」 (p.180)

「数学ガール」で出てくる数学トピックはまさに「真理の探究」である。 でもリサの向いてる方向は「善の実現」なんじゃないか,とふと思ったのだ。 もちろんこれは読み手の勝手な解釈だけどね。 でもでも,もしそうなら「流しのプログラマ」であるおじさんから見て,そういう子が物語に登場するのはちょっぴりうれしい。 ちなみに「善の実現」とはすなわち「最善を尽くす」ことだ。 これはすべてのエンジニアの矜持であるべきだと私は思う。

そういえば「数学ガール」は物語として「美しい」。 これで工学ガールが登場すれば「真美善」がそろってしまうな(笑)

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数学ガール/乱択アルゴリズム
結城 浩
ソフトバンククリエイティブ 2011-03-02
評価

数学ガール/ゲーデルの不完全性定理 数学ガール/フェルマーの最終定理 数学ガール 数学的思考の技術 (ベスト新書) JavaScriptパターン ―優れたアプリケーションのための作法

by G-Tools , 2011/03/02