「ソーシャル・ネットワーク」と Facebook

no extension

少し前の話になるが,映画「ソーシャル・ネットワーク」を観に行った。 世界最大規模の SNS である Facebook のサクセス・ストーリー(?)である。

映画自体は,まぁ楽しめた。 事前に「最初から飛ばしてる感じだから気合いれて観た方がいいよ」と忠告されていたが,果たしてその通りだった。 つか,吹き替えで観た方が面白かったかなぁ。 のっけから台詞が怒涛のように押し寄せてくる。 英語不得手なので耳から入ってくる台詞は半分も聴き取れないし,字幕はあきらかに要約しか表示しない(まぁ台詞全部字幕にしてたら多分スクリーンが字で埋まるw)。

以前(2006年)に日記で「mixi は結社的公共空間?」と書いたことがある。 「ソーシャル・ネットワーク」の前半では学生たちが集まる社交クラブについての描写がいくつかある。 それは社交クラブというよりは友愛結社というべきもので,初期の “The Facebook” はまさにリアルの友愛結社の仕組みを取り込み,そして友愛結社そのものを取り込んで急成長していく(映画の内容がどこまで事実に即しているかは分からないが)。

昔読んだ『秘密結社の世界史』には社交クラブと友愛結社の違いについて

「社交クラブと友愛結社がちがうのは、後者が儀礼を第一義と見て、それに多くの時間をかけ、社交の時間を犠牲にしていることだ」 (p.147)

と書かれている。 「ソーシャル・ネットワーク」ではまさに(社交クラブという名の)友愛結社の儀礼の描写(主にイニシエーション)があるが,「mixi は結社的公共空間?」でも書いたとおり, SNS にもサービス空間を維持するための明示的・暗黙的「儀礼」が存在する。 Facebook では今なお実名登録を要求されるが,これは “The Facebook” から続く「儀礼」の名残だと思う。 (ときどき「Facebook は実名だから」云々という説明が見受けられるが,これは SNS の本質を突いてないと思う)

なんでこんな感想めいたことを書いてるかというと,実は今「Facebook とは何か」をどうやって説明すればいいか考えていて,それに Tumblr で見かけた reblog なんかもあって,ちょっと昔書いた記事を思い出してしまったのだ。 Facebook が他の SNS,特に国産の mixi などとどう違うのかを説明するのは結構難しい。

見た目の話で言えば Facebook は mixi よりも取っ付きにくい。 画面を見ても何をしていいかよく分からないからだ。

どこだったか失念したが(多分 Tumblr で見かけたんだと思う), Yahoo! Japan と Google の違いはナビゲーションの有無の違いだ,という記述を見かけたことがある。 Yahoo! Japan は検索サービスと思われてるが,実は検索はサービスの一部分でしかなく,全体としてみればディレクトリ・サービスであるといえる。 だから各サービスを「指示」するナビゲーションが必要になるわけだ。 一方, Google にも実は様々なサービスがあるが,それらを指示するナビゲーションはなく,検索によってユーザにそれを「発見」させる仕組みになっている。 例えば広島市内で「ソーシャル・ネットワーク」を上映している映画館を探す場合, Yahoo! Japan ならトップページから「映画情報」ページに遷移するが, Google にはそのようなナビゲーションはない。 その代わり「ソーシャル・ネットワーク 広島」で検索すれば Google の映画情報ページが結果に表示される。

mixi と Facebook の関係もこれに似ている。 mixi は Yahoo! Japan に似て「見えるものがすべて」だが, Facebook では面白さはあらかじめ隠されている。 言い方を変えれば, mixi は見え過ぎてウザいが Facebook は何もなくて何をしていいか分からない,ということになる。

もうひとつ Facebook を特徴付けるものは Wall (と News Feed)だと思う。 ユーザにとって Facebook で一番重要なのは,ソーシャル・グラフの構築よりも,構築されたソーシャル・グラフを使って何をするかだと思う。 それが端的に現れるのが Wall だ。 最初に Facebook の結社的側面について書いたが,「構築されたソーシャル・グラフを使って何をするか」が重要なら,旧来の SNS における儀礼は邪魔になる。 だから最近の Facebook は儀礼(あるいは暗黙的儀礼を助長するもの)を排除する方向で再構築しているように見える。

Facebook はもはや招待制ではない。 Facebook 自体は実名での登録を要求しているが,有名無実になりつつある。

「私の発表の後に話しかけてくれたドイツ人の学生さん曰く、「Facebookで実名を使う、というのはあり得なくなっています」とのこと。 特に就職活動を控えた学生達は、web上に実名でいろいろなことを書いておくと、就職面接でプリントアウトした束を目にすることになるのが怖い、と言う。 そのため、彼らが取っている方法は

「ファーストネームは実名、ラストネーム(姓)は偽名」

だそうだ。これなら、親しい人にはすぐ見つけられるが、親しくない第三者(面接官だったりSPAMMerだったり)に対しては匿名性が発揮される。多くの情報が実名によって名寄せされ、社会生活で突きつけられることへの抵抗感は少なくない、と強調された。」

(via 「「日本人は匿名志向・外国では実名志向」を疑う」)

「友人」の多さは必ずしもステータスにならない。 むしろ Wall 上の「活動」への評価(「いいね(Like)」やコメント・シェア等)が重要視される。 これはファンページでより際立つ。

Facebook はマーケティング手段として認知されつつある。 マーケティング用のアプリも登場しているし,コンサルを始める企業も登場している(こういうのを見るとかつての Second Life の馬鹿騒ぎを思い出すんだが)。

Facebook では企業側の要請と個人のプライバシーが衝突し,しばしば問題を起こす。

こうして Facebook の特徴を見ていくと mixi はいかにも中途半端に見える。 いっそ GREE のようにゲームプラットフォームにでも徹したほうがすっきりしたかもしれない。 Facebook を意識して対抗するサービスも準備しつつあるようだが,どうもイマイチな感じである。 これは,ひとつには古参ユーザの圧力が強いこと(「mixiに受けた「いやァな感じ」」など),もうひとつには上場前後から重視しはじめたケータイ(フィーチャフォン)ユーザの縛りがあり, mixi は思い切った手が打てないのではないかと邪推したりする。

まぁ,でも,実際に Facebook が日本で本当に流行るかどうかは分からない。 私自身アカウントをとったものの2年くらい放置状態で,アクティブに使い出したのはここ数ヶ月の話である(だってホンマに何していいか分からんかったんじゃもん)。 ただ「遊んでみる」(そしてあわよくば仕事につなげる)価値はあるんじゃないかなぁ,とは思う。

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Facebookをビジネスに使う本
熊坂 仁美
ダイヤモンド社 2010-11-06
評価

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by G-Tools , 2011/02/01

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秘密結社の世界史 (平凡社新書)
海野 弘
平凡社 2006-03-11
評価

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by G-Tools , 2011/02/01