「Web クリエイターのためのクリエイティブ・コモンズ基礎講座」のあとがき
Vox 記事のとおり, 『web creaters』 vol.71 2007年11月号に記事を載せていただきました。 ここではその記事「Web クリエイターのためのクリエイティブ・コモンズ基礎講座」について, 簡単なあとがきを記しておこうと思います。 ほら, 私は本職のライターではないですし, 記事が雑誌に載るなんて極めて異例なことなので(3年ぶり2度目), 調子に乗ってこれくらいやってもいいっしょ(笑)
お話をいただいたのは8月下旬頃。 たまたま納品が終わってひと段落ついたところだったので, お受けすることにしました。 これがねー, 最近は使っていないメールアドレスから来たので, 気がつくのに随分かかってしまったのです。 で, 書き始めたのが9月に入ってからで, 期間としては1週間(人月で言えば3人日ほど)で書き上げました (もっともそれから向こうの担当の方にはどえらいお手数をおかけしてしまったのですが)。 なので9月に起こった『CONTENT'S FUTURE』を巡る一連の議論については盛り込めなかったりします。
最近の CC/CC-license を巡る一連の議論を見てて思うのは, 「おまえ等ちゃんと議論したいなら 『クリエイティブ・コモンズ』 を読んでからにしろ!」 ということでした。 「CCLの議論延長戦@twitterのまとめ」でもちょこっと触れていますが, 2003年頃からの CC/CC-license に関する議論を追いかけている人たちにとってみれば, 今行われている議論は単なる「再放送(Rerun)」でしかありません。 個人的には2003年末にレッシグ教授が来日されたあたりで「CC-license とは何か」について議論するのは終わったと判断しています (「萌えクリ」もどっか行っちゃったしねぇ。 みんな本業ある身だから仕方ないけど。 もっとも本家アメリカでは CC-license の改良について活発に議論されてるけどさ)。 だからさ, 『クリエイティブ・コモンズ』 を読みなってば, ということですよ。
さて, 「Web クリエイターのためのクリエイティブ・コモンズ基礎講座」の中身についてですが, 今回は一箇所意図的に曖昧にした部分があって, それは例の CC-license の追加条件とデュアルライセンスについてです。 記事では
「たとえば、 CCライセンスの下に著作物の営利目的利用を禁止できるが、 個別の問い合わせに対しては何らかの条件と引き換えに営利目的の利用を許可する、といったことも可能なのだ。」
と書いてますが, 具体的にどうすればいいのかについては全く言及していません。 CC-license の面白さは基本的に「禁止」していないということです (nc では営利目的利用は禁止されているけど)。 ライセンスで明示的に許可されていること以外については著作(権)者側に保留されているだけで, (もちろん保留されたままなら利用者はそれを行えないわけですが) その保留事項を解除して利用者に許可するかどうかは著作(権)者側の裁量に委ねられているわけです。 これが私をして追加条件を設定できると言わしめている根拠になっています。
とはいえ, せっかく CC-license が内容を4つのマークに集約したってのに, それに更に条件を加えるのは無用な複雑さを招くだけであまりメリットがないように思います。 規則や制約が複雑になればなるほど, それを守るのは困難になります。 それならデュアルライセンスやそれに近い(上述のような)運用でかわす方が得策です。
もう一点, 「Web クリエイターのためのクリエイティブ・コモンズ基礎講座」について「まずったなぁ」と思ったことが。 記事では CC-license は著作権ライセンスであり肖像権など他の権利については何も保証しない, といったことを書いたのですが, この書き方ではまるで CC-license が著作権リスクをクリアしていることを保証しているみたいな書き方になっています。 これは後で読み返して「しまったなぁ」と思ったのですが, まさに後の祭りです。
もちろん CC-license は著作権リスクについて何も保証していません。 そもそも, ある著作物について著作権リスクが完全にクリア可能なんてことはあり得ないのです。 それは DRM で囲われたコンテンツについても同じです。 他人の作品をパクった物でも一度 DRM の流通ラインに乗ってしまえば正規品と同じなのです (つまり DRM を使おうが電子透かしを使おうが, やり方次第で「違法コピー」のダウンロードを助長するシステムになり得る)。 CC-license においては, 利用する側はリスクを(一部)引き受ける代わりに著作(権)者に信用を託しているわけで, これは世の中に溢れるあらゆる作品・製品について同じことが言えます。 セキュリティでも同じですね。
CC-license では作品のリスクについて何も保証しない代わりに, そういったリスクが存在することを明示して警告します。 これが第6条「責任制限」の項目です。 本家アメリカの CC-license ではこの部分は「表明保証条項」と呼ばれる項目になっています。 「表明保証条項」を日本でどう解釈するかは, Karl-Friedrich Lenz さんの論文(PDF)なども話題になったせいか, かなり議論になりました。 で, 結局今の形に落ち着いています。 詳しくは 『クリエイティブ・コモンズ』 を読め! ってことで(笑)
まっ, こんな感じで至らぬところもありますが, よろしかったらお手にとって読んでみてくださいませ。