「イスラーム国」に至るまで

no extension

池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』を読みながら勉強中。 この組織(?)が “the Islamic State” を名乗るまでに少なくとも4回は名前が変わってるらしい。 これ読んでようやく諸々がつながった。

タウヒードとジハード団

(Jana‘a al-Tawhid wa al-Jihad)

1999年 — 2004年10月

「タウヒード」とは唯一神信仰を指す言葉らしい。 もともとはヨルダン政府に対するテロを実行するグループだったらしい。 9.11 以後,2002年6月にイラクに移り,フセイン政権崩壊後は反米武装勢力として台頭する。

2つの大河の地のジハードの基地団

(Tanzim Qa‘ida al-Jihad fi Bilad al-Rafidayn; al-Qaeda Organization in the Land of Two Rivers)

2004年10月 — 2006年1月

いわゆる「イラクのアル=カーイダ(AQI: al-Qaeda in Iraq)」のこと。 「2つの大河」とはもちろんチグリス・ユーフラテス河のこと。

イラク・ムジャーヒディーン諮問評議会

(Majlis al-Shura Al-Mujahidin fi al-‘Iraq; MSC: The Mujahideen Shura Council)

2006年1月 — 10月

「イラクのアル=カーイダ」が主導し,現地の少なくとも5つの組織が加わってできた連合組織。 「イラクのアル=カーイダ」の組織も維持されたが,イラクへの土着化の方向性を示したことが重要らしい。

もともとの「タウヒードとジハード団」創設指導者のザルカーウィーは2006年6月に米国の空爆により死亡するが,イラク人指導者に権力移譲が行われた。

イラク的イスラーム国

(Dawla al-Iraq al-Islamiya; ISI: Islamic State of Iraq)

2006年10月 — 2013年4月

「イラク・ムジャーヒディーン諮問評議会」に参加した諸勢力が統合,スンナ派の部族勢力の一部なども取り込んで「国家」を宣言する。 ここでバグダーディー等が指導者となり,領域支配やカリフ制の布石を打っていく。

イラクとシャームのイスラーム国

(al-Dawla al-Islamiya fi ‘Iraq wa al-Sham; ISIL: the Islamic State of Iraq and the Levant; ISIS: the Islamic State of Iraq and al-Sham)

2013年4月 — 2014年6月

英語では ISIS(アイシス)あるいは ISIL(アイシル)と呼ばれるらしい(“the Islamic State” の部分をなるべく端折ろうとしてこういう呼び方になるらしい。「国家」として認めたくないという意志の現れ?)。 「シャーム」はアラブ世界の歴史的な地理概念で,東地中海沿岸地方から内陸部にかけて(現在のシリア,レバノン,ヨルダン,パレスチナを含む)の範囲を指すらしいが,これに該当する英語がないらしい(「拡大シリア(Creater Syria)」が最も近い言葉だがゴロが悪いので使われないらしいw)。 近い言葉として the Levant があるそうだが,これは植民地主義的なニュアンスがあるようだ。 アラブ諸国の政府などは(ISIS/ISIL はイスラーム的でも国家でもないとして)「ダーイシュ(Da‘ish)」の略称で呼ぶことが多いらしい。

イスラーム国

(al-Dawla al-Islamiya; the Islamic State)

2014年6月 —

欧米やアラブ諸国では(イスラーム的でも国家でもないとして)これを無視して変わらず ISIS/ISIL またはアラビア語の「ダーイシュ」の略称で呼び続けているらしい。 してみると,ニュース等で普通に「イスラーム国」と呼んでいる日本は案外素直な国なのかもしれない(笑)

参考文献

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イスラーム国の衝撃 (文春新書)
池内 恵
文藝春秋 2015-01-20
評価

「イスラム国」の正体 なぜ、空爆が効かないのか Wedgeセレクション No.37 メディアとテロリズム(新潮新書) 現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義 講談社現代新書 イスラム国 テロリストが国家をつくる時 (文春e-book) 知らないと恥をかく世界の大問題 学べる図解版 第4弾 池上彰が読む「イスラム」世界 (―)

「イスラーム国」だけでなく近代以後(特に 9.11 以後)の中東の歴史について理解を深められる良書。

reviewed by Spiegel on 2015/01/31 (powered by G-Tools)

この本を知ったのは

より。 山形浩生さんが手放しで絶賛してるのは珍しいと思ったからだが,読んでみたらほんとうに面白い。 でもまだ読みかけ。 そのうち感想を書くかもしれないが,要らんことを言って後ろから刺されるのは嫌なので,ネットでは黙ってるかも。

本は読まなくても対談は読んでおくべき(対談を読んで買うかどうか判断してもいいかも)。