「オーウェルが描いた悪夢のような監視社会をさまざまな点で超えてしまっているこの世界」で私たちはいかにして生き残るか
「サイバーセキュリティ基本法」が衆議院で可決されたようです。
この法律に関しては特に言うことはない。 むしろ「ようやくか」という感じ。 色々あったからねぇ。 あとは,法が適正に執行されるか監視は必要だけど。
既に
そのほかサイバーセキュリティ基本法では、サイバーセキュリティに関する産業の振興や、人材の育成や確保、国民に対するセキュリティ教育なども国が取り組む施策だとしている。
「サイバーセキュリティ基本法」が成立、国の責務を明確化より
ということで「セキュリティ利権」臭プンプンだけど。 国が「人材が足りない」とか「人材の確保が必要」などと言い出すプロジェクトは概ね失敗する。 そこにアリのように集まる「業界人」にしゃぶり尽くされてポイ,となるのがオチだ。 私らの世代はあの「シグマ計画」を忘れてないよ。 最近では東北大震災復興や福島原発事故対応なんかもそうだよね。 私らの税金は官僚や業界の利権のためにあるのではない。
まっ,そんな愚痴はともかく。
このような hierarchical なセキュリティシステムが機能するためには「トップに信頼を託せる」ことが絶対条件だ。 これは国家でも企業でも X.509 のような PKI でも同じ。 何故こんなことを今更言うのかといえば,世界中の国家レベルの既存セキュリティシステムがまさに「トップに信頼を託せる」かどうかで崩壊しつつあるからだ。
最近ではこんな記事が出ている。
Baker氏は主張の根拠として、ロシア、中国、アラブ首長国連邦(UAE)などでは、テロとの戦いやその他の重大な犯罪に対抗する目的で、企業は保存データを当局に提出することが義務づけられていると語った。そのため、BlackBerryはこうした国々で冷遇されたのだという。
「BlackBerryは自らの製品が売れなくなるような機能をわざわざ組み込んだ。我々は米国内でサイバー戦争に勝利したらそれで終わりだと考えがちだ。しかしそれは、最も容易な戦いに勝っただけだ」とBaker氏は語った。
NSA元法律顧問、BlackBerryの失速は暗号化が原因と指摘 - CNET Japanより
これは明らかに言いがかりだ。
確かに RIM 社は(主に第3国から)ユーザデータの提出を求められたが,最終的にはその要求に屈する形で対応している。 もし本当に BlackBerry が売れなくなった理由がそこにあるというのなら,それは RIM 社に対し NSA の介入があったことを示唆するのではないのか。
(ピンと来ない人のために補足しておくと, NSA には「NSA からの要請を断った企業は NSA に潰される」という噂がある。 もちろん,あくまで噂。 しかし「NSA元法律顧問」氏のこのような発言が出るということは,この噂が単なる噂ではないと邪推することもできるし,もしそうならこの発言は Apple や Google に対する間接的な強迫行為と受け取ることもできる)
実際には RIM も Nokia も「スマートフォン市場」での競争に敗れただけだ。 両社の次回作にご期待ください(笑)
だだをこねる FBI
でも書いたが「警察にできることは犯罪者にもできる」のだ。 それはつまりネットワーク犯罪に関して「警察は市民を守れない」ことを意味する。 そもそも,警察は一般の市民もテロリストも内部告発者も区別できない。 それらは全て日常空間に埋め込まれ排除できないからだ。 これが「9.11 以後」で「スノーデン以後」における認識である。
このように「トップに信頼を託せる」ことができない状況では,我々「一般ぴーぽー」は「自衛」するしかない。 米国のようにもともと「自衛」意識の高い国や地域では,この傾向が特に顕著だ。
F-Secure では「内部告発して生き残る方法」という記事で携帯電話の使い方を紹介している。
携帯電話は追跡に使用されます。携帯電話のネットワークを調べれば、あなたがどの基地局に接続しているかをいつでも把握できます。その他のサービスでは、GPSによる正確な位置情報までも記録し、保存できます。こうした情報のすべてに調査員はアクセスすることができるので、情報によって、あなたの身元が明らかにならないようにする必要があります。言うまでもありませんが、普段使っている携帯電話を内部告発に使用してはなりません。
情報をリークするには「使い捨て」携帯電話が必要です。使い捨てであれば、あなたの身元と結び付くことはありません。使い方についてはいくつかのルールがあります。
- 使わないときは必ずバッテリーを外して電源を切っておくこと。電源ボタンをオフにするだけでは、電話のすべての部分の電力が切断されたことにはなりません。
- 自宅、またはその近所で決して電源を入れないこと。調査員は、携帯電話が接続した基地局を簡単に特定できます。自宅の近くで電源を入れると他の人よりも疑われやすくなります。
- 自分の車の中または近くで決して電源を入れないこと。基地局に残された通話記録により、ナンバープレートを記録した交通監視カメラの映像と関連付けられる可能性があります。あなたの車が、自動車監視システムなどのデータ接続機能を搭載した新しい車種であれば、これは特に気をつけなければなりません。
- 使い捨て携帯電話を、情報をリークする相手以外に決して使わないこと。たった1回配偶者に電話するだけでも通話記録が残り、あなたと電話が結び付けられます。もちろん、内部告発に必要な情報以外は、決して電話に保存してはなりません。
- 使い捨て携帯電話を外で使うときには、普段使っている携帯電話は必ず自宅に置いたままにすること。そうしないと、使い捨て携帯電話を使っているときに、普段使っている携帯電話が「偶然」同じ基地局に接続しているのを調査員に気づかれる可能性があります。
- 使い捨て携帯電話を持って外出するときは、普段使っている携帯電話の電源を入れたまま家に置いておくこと。こうすることで、一方の電源が切れると、一方の電源が入るという規則的なパターンを避けて、気づかれないようにすることができます。
- その他のワイヤレス機器は家に置いたままにすること。タブレット、ワイヤレスの携帯型の支払い機器など、無線を使う装置を持って外出しないようにします。
- ボイスチェンジャーを必ず使うこと。特に、容疑者リストの人数が少ないときは必須です。あなたの通話は録音されて、あなたの声と照合されるのは当然であると考えておきます。
スマートフォンではなく、バッテリーが着脱できる安いプリペイドの携帯電話を選びます。現金で買って、どのような形であっても販売店に身元を明かしてはなりません。領収書やその他購入関連の書類は安全な方法で破棄します。
エフセキュアブログ : 内部告発して生き残る方法より
ふだん私たちが使っている「スマホ」が国家によってどのように利用され得るかお分かりだろうか。 そして,ここが重要なポイントだが,(テロリストなどの)犯罪者が iPhone や Android などの監視が容易な携帯端末なんか使うわけがない! のである。
今は良くも悪くも「過視」的な時代で,それは為政者にとっても私たち一般の人達にとっても同じなのである。 このような状況で上手くセキュリティシステムを運用するには「プロセスを透明化」するしかない。 はたして日本の「セキュリティ利権」に群がる人たちは分かっているかな?

- 信頼と裏切りの社会
- ブルース・シュナイアー 山形 浩生
- エヌティティ出版 2013-12-24