Plutoid as TNO

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おおっ, 天文学カテゴリの記事は1年以上ぶりじゃないか! 最近は Vox で書くことが多いからなぁ。

今年, オスロで行われた IAU (国際天文学連合)評議員会において, 冥王星型の TNO (Trans-Neptunian Object)に対して plutoid(s) という名称を与えることを決定しました。

ここでちょっと復習をしておきましょう。 発端は2006年の IAU 総会で決議された太陽系天体の新定義です。 決議された定義を以下に挙げます。

  1. planet とは,
    1. 太陽の周りを回り
    2. 十分大きな質量を持つので,自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し
    3. その軌道の近くで他の天体を掃き散らしてしまっている天体
    である。
  2. dwarf planet とは,
    1. 太陽の周りを回り
    2. 十分大きな質量を持つので,自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し
    3. その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり
    4. 衛星でない天体
    である。
  3. 太陽の周りを公転する上記以外の他のすべての天体 は “Small Solar System Bodies” と総称する。
  4. 冥王星は上記の定義によって dwarf planet であり, Trans-Neptunian Object の新しい種族の典型例として認識する

冥王星を含む「Trans-Neptunian Object の新しい種族」については Plutons とか plutonian objects とかいった名称が提案されましたが, 決議には至りませんでした。

この決議を受けて, 日本学術会議において「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」が開かれます。 2007年に公開された第一報告では太陽系天体の和名が紹介されました。 以下に小委員会で決まった和名を挙げます。

planet :
「惑星」を推奨
dwarf planet :
「準惑星」を推奨
small solar system bodies :
「太陽系小天体」を推奨
trans-Neptunian object :
「太陽系外縁天体」を推奨

また, 2006年の IAU 総会では決議に至りませんでしたが, 冥王星を含む太陽系外縁天体の新しい種族については, 先行する形で「冥王星型天体」という名称を推奨しています。

さて, 今回の決定は「冥王星型天体」に相当する正式な名称とその定義について言及しています。 すなわち plutoid(s) とは

  1. 太陽の周りを回り
  2. 太陽との軌道長半径が海王星のそれより大きく(TPS の記事では average distance (平均距離)ってなってるけど,多分間違い)
  3. 十分大きな質量を持つので,自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し
  4. その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり
  5. (plutoid の)衛星でない天体

となります。 「太陽との軌道長半径が海王星のそれより大きい」以外は準惑星の定義と同じです。 簡単に言うなら, 海王星より遠いところにある準惑星は全て冥王星型天体だということです。 ちなみにフランス語では plutoïde, スペイン語では plutoide だそうです。 現在, この定義に完全に合致する天体は冥王星とエリスのみですが, 今後の観測により冥王星型天体が増えていくことが期待されています。

ところで, 日本学術会議の「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」では, 第二報告も公開されています。

第二報告では中学生向け説明資料があって「準惑星」の記述を巧妙に外しているのが面白いです。 教育指導者向け説明資料では

「「準惑星」には上記の冥王星、 エリスに加えて、 小惑星帯のケレスが含まれる。 準惑星の概念は太陽系の理解に必ずしも本質的でなく、 高校までの教育のレベルを超えると判断されるため、 その積極的な使用は推奨しない。 また、 分類名には過度にこだわるべきではない。」

と書かれています。 前にも書きましたが, やはり準惑星の扱いに困ってる感じですね。 一方, 新太陽系図として公開されているリーフレット (PDF; 利用規約(これも PDF)によると,ネットへの転載は禁止されているので注意)はなかなかいいですね。 私はいまだに「外縁天体」という言い方に違和感があるのですが, リーフレットを見れば, かつて私たちが太陽系としてイメージしていたものが実は太陽のほんの近傍に過ぎなくて, 今「外縁」と呼んでいる部分こそ太陽系の大部分であることが分かると思います。

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「太陽系」の地図帳
縣 秀彦
青春出版社 2008-04-26

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by G-Tools , 2008/06/14