『心理諜報戦』を読む

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この本を買った理由は Vox の記事で書いたが, ホンマに読みにくい本。 いまだによく理解できてない, 多分。

この本の印象を一言で言うなら「麻雀必勝法」かな。 いや, 皮肉でもなんでもなく。 巷にある「麻雀必勝法」本との違いを言うなら, 麻雀における心理戦はゲーム内で閉じてるけど, 実際の「心理諜報戦」はそれが日常化しているってとこだろうか。 この本のとおりの観点で世の中を見回したら, 間違いなく神経症になる。 本の中でも

「というのも、 諜報活動では、 普通の人では気付きもしない微かな兆候を見逃さずに、 適切な解釈・分析を施し、 直近の事態の展開を予測しなければならない。 つまり、 絶えず「未来先取的」であらねばならないのだが、 これは同時に分裂病者ないし分裂病親和者に顕著な兆候でもあるという。」 (p.156)

などと書かれている。 私のように精神的にタフでない人間にとっては, あまり参考にならないように思える。

それでも全く参考にならないかというと, そんなこともない。 『心理諜報戦』 は, 主に「認知操作」について書かれているが, その中でもストーリーという概念の重要性について多くを割いている。 「認知操作」というのは, つまるところ, このストーリーを有利な方向に誘導するための手段であると言えるのかもしれない (しかもこの本自体が「認知操作」というストーリーを紹介する本になっている。 前に読んだ『自分探しが止まらない』にしてもそうだけど, 最近こういう構成の本が流行ってるのかね)。 ねっ, 「麻雀必勝法」っぽいでしょ。

それがストーリーであるなら, そこに何らかのパターンがあるはずである。 ほら, 言うじゃない。 「想像を絶するものは想像できない」って。

例えば 『心理諜報戦』 では, 中国において2001年4月1日に起きた EP-3 事件を巡って行われた認知操作について紹介している。 ちょっと長いけど, 以下に引用しておく。

「EP-3 は公空上を、 飛行計画に沿って飛行し、 公然の偵察活動を行っていた。 遭難の際にはクリアランスなしの着陸を許可する国際法に従って中国領に緊急着陸した。 実は事件の3か月前に、 米・太平洋軍司令官は中国機の攻撃的な活動に懸念を表明し、 中国政府に公式の抗議を申し立てていた。 事件前には、 中国は新華社を通じて EP-3 の監視飛行に抗議していない。 つまり衝突事件はむしろ米国に有利に報道され得たはずなのである。
しかし、 事件後、 中国は巧みに衝突の原因から焦点をずらしながら、 飛行機が中国領に着陸した結果を前面に押し出し、 米国の覇権主義が自国の海岸線にまで及んでいる旨強調した。」 (p.81)

これって何か既視感がないだろうか。 今年はじめに騒がれた毒入り餃子事件や、 今も国際的な論争を巻き起こしているチベット問題である。 ポイントのひとつは情報統制だ。 上述の EP-3 事件では

「中国は、 EP-3 乗員を11日間にわたって拘束し、 情報の流れをコントロールした。 乗組員は3日間、 米国側との連絡を許可されなかった。 その結果、 中国は事実に関する情報を完全に統制し、 メディアによる報道の流れを決定することができた」 (p.83)

そうである。

特にチベット問題については, それ自体も大変な問題だが, そこで中国が国際世論に対してどのようなアクションをとり, その結果として世論がどう動いていくかという点は注視すべきだろう。 何故なら, その手法を日本に対して使ってくる可能性があるからだ。 チベット問題は日本にとって決して「対岸の火」ではないのである。

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心理諜報戦 (ちくま新書 704)
野田 敬生
筑摩書房 2008-02
評価

諜報機関に騙されるな! (ちくま新書 639) 真理の哲学 (ちくま新書 703) 打たれ強くなるための読書術 (ちくま新書 705) 大人の敬語コミュニケーション (ちくま新書 694) 国家・個人・宗教 ~ 近現代日本の精神 (講談社現代新書 1919)

by G-Tools , 2008/04/18