『ウェブ人間論』を読む

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ウェブ人間論
ウェブ人間論
posted with 簡単リンクくん at 2007. 3.24
梅田 望夫著 / 平野 啓一郎著
新潮社 (2006.12)
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優れた対談。 お互い暴投しまくりで議論がかみ合わなかったりすることもなく, 「だよね」「そうだよね」みたいな馴れ合いにもならず, いい緊張感が文面からも伝わってくる。 なので, 読む(というより感覚的には対談を傍聴する)側もついつい引き込まれる。

ところで, 私は対談の一方の側である梅田望夫さんのファンで, その理由は彼が経営者視点でビジョンを語れる人だから。 例えば『ウェブ進化論』全体を包む楽天的なビジョンはまさしく経営者のそれだ。 というわけで 『ウェブ人間論』 を読む前は「きっと梅田望夫さん側に肩入れして読んじゃうんだろうなぁ」とか漠然と考えていた。 (だから今まで読まなかったとも言える。 結末の予想できる読み物ほどつまらないものはない)

ところが実際に読み始めてみると梅田望夫さんの発言の方に違和感を感じてしまう箇所がいくつか出てきた。 むしろ共感を覚えるのはもう一方の側の平野啓一郎さんだったりするわけだ(失礼ながら平野啓一郎さんの著書はぜんぜん読んだことありません。ごめんなさい)。 中でも顕著に違和感を感じたのは「島宇宙化」に対する両者の考え方の違い。 平野啓一郎さんは

「趣味の島宇宙的なコミュニティに属するというのは、僕は基本的に微笑ましいことだと思いますけど、そこで得られる同じ島宇宙の住人からの承認っていうのは、なんていうか、見て見ぬような感じだと思うんです。 (中略) そうして認められることに他者からの人格的な承認の幻想を託して、現実は結局何も変わらないまま放置されているという状態が、個人にとって本当に幸せなのかなと。」(p.165)

と述べておられる一方で梅田望夫さんは

「それで好きなことを一生懸命やって、専門とか自分の好きなことの中に閉じこもっていると、オタク化していく。ネットはそういう傾向を増幅するから、ネットの中で自分がやっていることの領域が、ひとつの「島宇宙」化していくわけです。 でも、この状況を、自分としては結構いいなと思ってるんですよ。 肯定していいんじゃないかと。」(p.162)

と仰るわけだ。 この部分を読んだときは「凄いこと言うなぁ」とあっけにとられてしまった。

で, まぁ, (他にも携帯端末に対する認識の違いとか)いくつか違和感を引きずったまま読み終わってしまって, 対談本としては非常に面白かったけど, このもやもやをどうしてくれようと悩んでいたところに明後日の方向から救いの女神が現れた(笑)

「もうちょっと真剣に考えると,日本でのネットはメタかネタ。 セカンドライフはそのどちらでもない。 日本のネットにおけるリアルとは何かという観点から見れば,セカンドライフにはまれない日本の状況がわかるかも。 米国の場合,リアルな生活とネット上での生活に正の関係性がきちんと成り立ってる場合がほとんどだから,例えばブログで生計立ててる人がいたりする。 反対の事例ももちろんたくさんあるだろうけど,でもなんというか,リアルから地続きの異郷という感じで捉えてる。 植民地か開拓地みたいな感じかなあ。 とりあえず所与のものとはしていないと思う。 趨勢を見つめるんじゃなくて実地に立ってる。」

引用長くてごめんなさい。 いや, 「リアルから地続きの異郷」という表現にしびれてしまった。 そう, この対談本はネットを「リアルから地続きの異郷」とみる立場と「リアルが切断(または解放)された異世界」とみる立場の間で交わされた議論だと位置づければ納得がいく。 どれだけ「あちら側」のコミュニティが島宇宙化しようとも, それが「リアルから地続きの異郷」であるかぎり「リアル」をノード(いやむしろハブ)として島宇宙(=異郷)同士を接続することができる。 しかし「日本でのネットはメタかネタ」であり, そこから見えるリアルは所詮「ゲーム的リアリズム」に過ぎない。 つまり島宇宙(=異世界)化というのは「リアル」が「こちら側」から遊離してしまうことに他ならない。

これはひょっとしたら日米のネットに対するメンタリティ(?)の違いなのだろうか。 それとも国や言語(あるいは世代や性差)を超えて普遍的に見られるものなのだろうか。 『ウェブ人間論』 は単なる対談本の域を超えた深いテーマを内包しているのかもしれない。 なんちゃって。

この本を読み終わってから読み方が分かるというのも間抜けな話である。 まぁまた読み返しますよ。

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ウェブ人間論
梅田 望夫 平野 啓一郎
新潮社 2006-12-14
評価

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by G-Tools , 2007/03/25