研究・開発の成否とは

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「はやぶさ」について対照的な記事があったので以下に紹介します。

前者は日経新聞の編集委員である清水正巳さんによる記事, 後者はジャーナリストの松浦晋也さんによる(前者の記事に対する)批判記事です。 私はソフトウェア・エンジニアの立場から松浦晋也さんの記事を全面的に支持しますが, この記事ではそれに加えて私が考えたことをいくつか書いてみたいと思います。

言うまでもなく「はやぶさ」は日本の宇宙開発の一環として開発・運用されているものです。 では宇宙開発, いえもっと広い意味で技術に関する研究や開発において「成功」や「失敗」とは何を意味するのでしょう。

ある目的をもった機能あるいはシステムが欲しいと思ったとします。 そしてその機能・システムを作って動作させたところ上手く動きませんでした。 はたしてこれは「失敗」でしょうか。 答えは2つあります。 これが研究・開発フェーズであれば(この先もまだ続けるつもりであれば)失敗ではありません。 しかし製造・運用フェーズであれば明らかに失敗です。 「研究・開発フェーズ」と「製造・運用フェーズ」の違いは松浦晋也さんの言葉を引用するなら 「「新たな探査を行うための技術開発/開発した技術を応用しての科学探査」と分類すべき」 ものだと思います。

今回「はやぶさ」に起こったこと(うまくいったこと,いかなかったこと)の全てはこれからの日本の宇宙開発にとって貴重な糧となります。 それらは今後徹底的に解析され「次回」にフェードバックされるはずです。 故に今は全力で「はやぶさ」を地球に帰還させるための努力が行われているのです。 もし宇宙開発としての「はやぶさ」が失敗に終わることがあるとすれば, それは「はやぶさ」に起こった様々なトラブルではなく, 開発を続けていられないほどの技術的な壁にぶち当たるか, (資金(予算)を絶つなどの)外部的な要因で一方的に開発を中断させられる場合です。 そして前述の清水正巳さんの記事が多くの批判を受けているのは, 記事の中で語られている諸々が「はやぶさ」を含む開発フェーズを中断へと誘導する FUD (Fear, Uncertainty, Doubt)として受け止められているからだと思います。

なお, 今回の記事に関連して「野尻ボード」での野尻抱介さんの発言も注目すべきだと思います。 野尻抱介さんが

「オフィシャルはL/Dのような記者会見レポートを発表していません。成功したら詳細に語るが失敗したら消極的にしか語らない現在のスタイルでは、成功・失敗だけを問題にしてくれと言っているようなものです。」

と書かれていますが, まさにそのとおりだと思います。 宇宙開発が国民の税金で賄われているという自覚があるのなら, その過程を私達に対してオープンにすべきです。 最低限記者会見の内容は正式なドキュメントとして起こして公開すべきでしょう。 そしてできれば “as is” の形でもいいから英語版も用意して欲しいです(必要ならネットのパワーを借りる手もあります)。

例えば今回の一連の「はやぶさ」の業績について 「The real promise of Japan's asteroid mission」日本語訳もあります) という記事も登場しました。 これらは今回の「はやぶさ」ミッションで活躍された英訳ボランティアの方々のおかげだと思います。 こうした動きも踏まえて JAXA にはもっともっとオープンに変わって欲しいと思います。