「顧客の言葉と技術者の言葉は違う」

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(この記事は「もっと辺境から戯れ言」に投稿した記事からの転載です)

このような言葉のギャップは普通の請負プロジェクトにも存在します。 私はエンジニアなので「技術者の言葉」を使います。 エンドユーザはもちろん「顧客の言葉」を使います。 ペーペーの新人だった頃は両者の言葉のギャップに随分悩みました。

本来「顧客の言葉」を「技術者の言葉」に「翻訳」してくれるのは営業担当者や SE と呼ばれる人達なのですが, この「翻訳」がうまくいかないことがあります。 というか(私の経験では)ほとんどの場合うまくいきません。 こうなると「顧客」と「技術者」との間で交換されるべき情報が滞留してしまい, うまくいくものもうまくいかなくなってしまいます。

何故このようなことがおこるかというと, 本来「翻訳者」であるべき営業担当者や SE が独自の考えで「政治的判断」を行ってしまい情報がフィルタリングされてしまうことにあります。 これでは「顧客」も「技術者」もお互いを信用しなくなって「サバを読む」ようになり, 進捗がどんどん狂ってくるわけです。 これを解消するには「翻訳者」(という名のフィルタ)を排除し「顧客」と「技術者」が直接コミュニケーションを行う必要があります。 実はこれをシステマティックに押し進めたのが XP (eXtreme Programming)という手法だったりします。

しかし, 実際問題として相手の言葉を理解するのは並み大抵ではありません。 「顧客」と「技術者」との間のギャップの根源は「問題の捕らえ方」の違いにあるようです。 つまり「技術者」は「顧客」の投げかける問題提起をエンジニアリングの立場で再構築し, それに対する解をまた最初の問いかけに合わせた形に「変換」しなければなりません。 更にこの「翻訳」プロセスそのものを顧客にちゃんと示す必要があります。(でなければ相手に不信感を与えてしまうことになる)

しかしこのプロセスを繰り返していくと「顧客」も「技術者の言葉」を少しずつ理解してくれるようになります。 こうなってくればしめたものです。 プロジェクトは正常にまわりだすようになります。

新人の頃, このようなプロセスのことをボスは「顧客を育てる」と呼んでいたように思います。 パッと見不遜な言葉のように見えますが, この業界に10年以上身を置くようになって「顧客を育てる」という言葉の意味をようやく理解できるようになってきました。 「顧客を育てる」ためには自分自身も「顧客の言葉」を聞き経験を積んで成長しなければなりません。 そうして積み重ねられたものが(小手先のテクニックとは違う)本当の意味での「技術」であり, それを持っている人が本当の「技術者」なのかもしれません。